麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。
第3章
◇父との食事
十一月。少しずつ肌寒さを感じる季節になってきた頃。
「……英那、ちょっといいか?」
私はお父さんに呼び出されて、書斎へと足を運んだ。
「どうかしたの? 改まって」
「あー……うん。明後日は、空いてるか?」
「明後日? 昼からシフトが入ってるけど、それ以外なら空いてます」
明日は遅番だから、十三時から十九時の閉店までだ。だけど、なぜ明後日?
「そうか、では……二十時には終わるな」
「うん、そうだね。それくらいには終われると思います」
「じゃあ久しぶりに、晩ごはんを一緒に行かないか? 二人で」
「え、行きたいです。お父さんと二人の食事久しぶりですし、楽しみにしてます」
お父さんと二人きりの食事はいつぶりだろう?大学卒業祝いのディナーの時以来かなぁ
私は、小さい頃からお父さんっ子だ。お父さんも私をとても可愛がってくれていたけど、私もお父さんが大好きだった。私が反対されて恋人を作ったり、婚約をしたりとわがままを通してしまったから距離が出てしまったけれど。
「私も楽しみにしてるよ、英那」
「はい」
これからはこの距離を元の距離に少しでも戻せたらな、と思っている。