ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
王太子のつぶやき



私はこの国の王太子、シャルル・ド・ゴンドランテ。王太子として二十二年間生きてきた。

母は隣国の王女の生まれで、ふたつの国の友好の証として嫁いできた人だ。
賢く美しい人だが、幼い頃からかしずかれて育ってきたから人の心には疎いようだ。

父王は、よくいえばおっとり、悪くいえばやや無神経な母とはそれなりに上手くやっていると思う。

王妃との間には私しか生まれなかったから、父は側妃をひとりだけ召し上げた。
その女性との間に、第二王子と第一王女が生まれている。

本来ならもう少し王家の血筋が欲しいところだが、母の手前もあって隣国に気を遣っているのだろう。

私は健康にも恵まれたし、学問や武術にも秀でていると言われている。
周りからは持って生まれた力だと思われているらしいが、いずれも努力して得たものだ。

誰よりも強く賢くなければ、国王として家臣や民を束ねていくことはできない。

だけど私だって決められた人生はつまらないから、つい羽目を外したくなる。
例えば、将来は私の側近となるルイ・ニコラス・ド・シャルタン。
彼とは幼い頃から同じ教師について学んだり剣を習ったりした関係だ。
ふたりだけの時は気安い話もできる、いい仲間だとも思っている。

シャルタン侯爵家には、よく遊びにいったものだ。

王宮ほど堅苦しくないし、使用人たちの応対も洗練されている。

よく手入れされた庭は絶好の遊び場だ。
侯爵夫人が庭師に造らせたという花壇を踏み荒らしたこともあった。

それに、侯爵家にはフランソワーズがいる。
ルイの三歳年下の妹。つまり私よりは五歳年下になる。

初めて会った時は、妹姫がいつも抱いているお人形のようだと思った。

まっ白な肌にふわりと広がる金色の髪。
形のいい目は長い睫毛におおわれていて、瞬きする度に音がするんじゃないかと思ったくらいだ。
ふっくらとした唇はまだ口紅なんて塗っていないはずなのに、サクランボのように濃いピンクだった。

『初めまして、王子様』

声を聞いた時に、この人形は生きているんだと感動した。

(この子をいつも側に置いておきたい)

つまり王太子妃にしたいと決めたんだが、父はもちろん母からも反対されてしまった。

あまりにも決めるのが早すぎると言われたのだ。
確かに当時の私はまだ十歳、フランソワーズは五歳。




< 14 / 20 >

この作品をシェア

pagetop