ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
フランソワーズの華麗なるスローライフ



私のスローライフが始まった!


あの日、私がジャンヌ様と一緒に領地に行くって宣言したら、お父様と伯爵様は驚かれていたけれどすぐに賛成してくださった。

お父様は私が王太子妃候補の教育を嫌がっていると知って、信じられないというお顔をなさった。
どうやら私がシャルル様のことが好きで、喜んで王宮に通っていると思い込んでいたらしい。

ジョゼフ様は、ジャンヌ様が暗い顔をして反抗ばかりするのが気になっていたらしく、私と楽しそうに話している姿に感動しておられたわ。

『フランソワーズのおかげだ! こんなに素直におしゃべりしているジャンヌは久しぶりだよ』
『君はどんな魔法を使ったんだい?』

五十五歳のおばちゃんの経験値ですとは言えなくて『お役に立てて嬉しいですわ』と、スッとぼけておいた。


何はともあれ、わがシャルタン家の領地は肥沃な土地に恵まれていて、この国の穀倉地帯とでもいうのだろうか。
小麦畑が一面に広がるし、丘の斜面にはワイン用のブドウ畑も続いている。

私はジャンヌ様、そしてルルやアランとここでの暮らしを楽しんでいる。

お散歩したり、近くの草原にピクニックに行ったり、この二カ月はのどかな毎日を過ごしている。

もちろんジャンヌ様にお勉強を教えたりもするけれど、一番の目的は彼女の心の傷を癒すことだ。
特に、太っていることを気にして小食になってしまっていたのを直したかった。

適度に運動して、新鮮な野菜をしっかり食べてもらうことにした。
もちろん、産みたての卵やこの辺りの農家で作っているチーズだって抜群の美味しさだ。
タンパク質だって育ちざかりには大切だからね。
そして、時おり甘いものが無性に食べたくなって(もちろん私が)しまうから、パンケーキを焼いてみたりグラノーラ風のお菓子を作ってみたりしている。

郁子が料理好きでよかったわ。
フランソワーズは貴族の令嬢だから料理なんてしないけど、郁子の経験があってこそのスローライフなんだから。

こんなふうに、毎日楽しく遊んでばかりじゃ『不良債権』として申し訳ないから、お父様の仕事のお手伝いをすることにした。

ジャンヌ様がルルと刺繍をしている時間を利用して、お父様の書斎で様々な書類を見せてもらうことにしたのだ。

もちろん、こんな時は『王太子妃教育で習った』という印籠を出すに決まっている。
これは誰もが信用してくれる魔法の言葉のようだ。








< 16 / 20 >

この作品をシェア

pagetop