完璧からはほど遠い
 諦めて頷いた。

「じゃあ、成瀬さん、おやすみなさい」

「うん、ありがとう」

 名残惜しさを感じながら、私たちは離れた。タイミングを改める必要があるみたいだ。仕方ない、またラインで日程を調整しよう。

 私と高橋さんが並んで歩き出す。腕はがっちりつかまれたままだ。一度振り返ると、成瀬さんがこちらをじっと見送っていた。高橋さんもそれに気づき、笑顔で手を振る。

 二人でエレベーターに乗り込んだ。そこでやっと腕が解放される。扉が閉まって下降しだすと、少しの間沈黙が流れた。

 私は気まずさに耐えられず、なるべく普段通りを装って話しかけてみる。

「あ、この辺はあまりタクシー通らないから、電話で呼んでみるね」

「お願いしまーす」

 さっきより幾分か低い声で言う。うーん、私が古い人間なのかな、先輩にそう言われたら『自分が掛けますよ』って私なら言うんだけど……まあいいか。

 私はなるべくゆっくりした動作で電話を掛ける。少しでも高橋さんと二人で話す時間を減らしたいと思ったのだ。生憎瞬時に電話は繋がり、一台タクシーを頼んだ。すぐに来れるようだったので、そこは幸いだった。

 マンションを出てエントランスも抜ける。すっかり暗くなった空には星が輝いていた。冷え切った風が頬を刺して痛みを覚える。吐き出した息が白く上るのを眺めながら、まあ、相手は高橋さんだけど、大和と鉢合わせたときのことを考えれば、一人で帰宅じゃないのはよかったと思っておこう、と考えた。

 玄関の前に二人立ってタクシーを待っていた。

「てゆうか、やっと分かりました。そりゃ勘違いしますよねー」

 突然主語もなく話し出した。きょとん、としてそちらを見る。

「佐伯さん、前成瀬さんのこと好きっぽい雰囲気出してたから。二人って全然接点ないはずなのに、成瀬さんも妙に佐伯さんを庇うようなこと言うなーって不思議に思ってたんです。そういう関係だったんですねー」

「い、いや、私は別に成瀬さんのことを」

「勘違いしちゃいますよねえそりゃ。ご飯作ってほしい、なんて言われたら、どんだけ釣り合ってないって分かってても期待するの分かります!」
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