僕の欲しい君の薬指


助手席に乗ってと促され、おずおずとドアを開けて乗車する。車内にはベルガモットの香りが充満していた。



「シートベルトした?」

「はい」

「ん、じゃあ出発するから」



片手でハンドルを握り、もう片方の腕は肘掛けに置いている榛名さんは、見るからに運転をし慣れている様子だ。運転している榛名さんの横顔は大学で顔を合わせる時とは全然違う雰囲気で、胸が擽ったくなる。



「何処か寄りたい所ある?」

「大丈夫です」

「必要な物とかもねぇの?」

「一応、ある程度の物は準備して来たつもりなので」

「そっか、じゃあ足りない物思い出したら遠慮なく言ってな。俺のマンション付近の土地勘ないだろうからいつでも教えるし、連れて行くから」

「ありがとうございます」



赤信号で一時停止させた隙にこちらへ端整な顔を向けてゆるりと口許を緩ませる相手が、国民的アイドルのApisのメンバーだと知ってしまったせいで、いつにも増して胸がドキドキと音を立てている。


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