僕の欲しい君の薬指



この部屋に辿り着くまでの廊下に、他にも三つも扉があった。推測でしかないけれど、珠々さんの寝室や仕事部屋があるのだろう。



「私…珠々さんと本当に一つ屋根の下で暮らすんだ」



少量の荷解きは一時間もかからずに終わり、ベッドに座った途端ここまで張っていた気が緩んでそのままゴロンと横になった。


視界に映るのは、当たり前だけど見慣れない天井。私はどれくらいここでお世話になるのだろうか。珠々さんはいつまでも居てくれて構わないって言ってくれたものの、そうはいかない。

彼は芸能人で一流のアイドルだ。私がこのマンションに出入りする事自体がリスクと伴っているはずなのだ。早く資金を作って新居を探さなくちゃ。ちゃんと一人で生活が営める様にしなくちゃ。



「天糸君に気付かれちゃったかな」



こうして独りになると、どうしてもあの子の顔が頭に浮かぶ。連絡手段を自分から絶たなければ恋情に流されてしまいそうな気がして恐かったから、携帯はあの部屋に置いて来た。


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