僕の欲しい君の薬指


真正面から伸びた手が、すっかり伸びた私の髪に指を絡めて梳く様に撫で下ろす。



「そっか、天が僕達に隠し続けていたのは月弓ちゃんの存在だったんだね」

「妃良さん…あの…」

「綺夏って呼んでって、初めて会った時に言ったじゃない」

「綺夏さん…あの…私は、私はどうすれば…正解ですか?」



珠々さんも然り、綺夏さんも然り、二人共こんな風に女性の髪に触れたり撫でたりする事に抵抗はないのだろうか。とても自然にやってのけるけれど、慣れていない私は目線のやり場に困る。


視界いっぱいを埋め尽くす綺麗な顔に、私の双眸が捉えられる世界を独占する国民的人気アイドルの姿に、元々なかった冷静さが削ぎ取られていく。



「それを決めるのは月弓ちゃんでしょう?僕は、月弓ちゃんに天との恋愛を強要するつもりは微塵もないよ」

「……」

「まぁ、月弓ちゃんがどれだけ逃げても天は追って来るだろうね」

「…っっ」

「誰よりも近くで見て来た月弓ちゃんが本当は一番よく知っているんじゃないの?」



“羽生 天の狂気的な愛から逃れる方法なんてないってね”



困惑する私が映る眼を相手が細めた刹那、唐突に鳴り響いた着信音がその場の空気を切り裂いた。


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