僕の欲しい君の薬指



「夢…じゃないよね?」

「あはは、夢だったらどうしよう。だとしたら、永遠に醒めないで欲しい…きゃっ…「やっとだ」」



背中に腕を回され、全身に鎖が巻かれたみたいに自由を失う。彼の心拍音すら耳で拾える程に私達の身体は密着していた。彼の腕の中に囚われるのは、これで何度目か判然としない。


それでも、これまで押し殺していた感情を解放した私にとって、この抱擁で覚える息苦しさは快感へと変わってしまった。

涙で濡れても尚美しい貌を私の髪に埋めた相手は、息の根が停まってしまいそうな程に痛くきつく私を抱き締めて耳元で開口する。



「やっとだ…やっとやっとやっとやっと、月弓ちゃんが僕を見てくれた。漸くその言葉を聴けた」

「時間が掛かってごめんね」

「遅い、待ち草臥《くたび》れた」

「うん、ごめんね。色々な物に対して踏ん切りをつけずにいた私のせいだね」

「でも、もう良いよ。苦しくて死にそうだった十数年だけど、たった一言で全部吹き飛ばしちゃう月弓ちゃんは本当に狡い」

「赦してくれるの?」

「赦さないよ。だから罰として息絶えるまで、僕に囚われてよ月弓ちゃん」



“骨の髄まで融ける程に、僕に愛されてよ月弓お姉ちゃん”



私の頬を滑った彼の指が確かに触れていたと云う証を残すかの様に、彼の深紅色の指の痕が顔に付く。



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