僕の欲しい君の薬指



翌日。私は大学を休んだ。まだ始まって一ヶ月も経っていないのに、こんな状態では「留年」の文字が迫るのも時間の問題だ。

無論、行きたい気持ちはあった。ただ、鏡の前に立った自分の目が見るに堪えない程に赤く腫れていてこれは流石に化粧でも隠す事は不可能だと判断した。しかし、そんな理由はあくまでも建前で、本音を云うと……。



「やっぱり天使みたい」



スヤスヤと寝息を立てて私のベッドで眠っている彼が大学を休む事になった一番の原因だ。


日に日に大人の魅力と色気を纏ってきている気がするけれど、寝貌は年相応だ。寧ろ少し子供っぽさすら感じる。とても悪戯な笑みをぶら下げて私を困らせる様な人には見えない。


まさか独り暮らしをして初めてうちに泊まった人が天糸君になるなんてな……。これじゃあ実家に住んでいた頃と何も変わらない。引っ越した意味もない。大学に入って平穏な日々を実感していた私は、油断をし過ぎていたのかもしれない。


漸く自由を手に入れた、天糸君の呪縛からやっと解放された。なんて、甘い妄想に浸っていた。


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