僕の欲しい君の薬指
あっという間に好奇の目に自らが晒されるのが分かった。他の誰でもない、私と対峙している彼のせいだ。頭から爪先まで全てに突き刺さる視線が痛くて顔が歪む。悔しい。そう思った。
いつもこうだ。私がどれだけ足掻いても、彼は美しい微笑みだけをぶら下げて私を追い詰める。いつだって気づいた時には逃げ道を奪われていて、彼の思惑に落ちる選択肢しか残されていない。
まるで彼の操り人形になっている様な現実が不愉快だ。そして何よりも、この子の掌の上から零れ落ちる事すらできない自分の愚図さと、頭の悪さがとても嫌いだ。
「ねぇ、月弓ちゃん」
アスファルトに伸びる二つの影を眺めながら溜め息を深く吐き出していると、穏やかで柔らかな声色が隣から降ってきた。咄嗟に地面へ向けていた視線を持ち上げて、自分の横に佇んでいる彼を捉える。
独り歩きした噂のせいで求められる魅力のハードルは勝手に随分と高くなったはずなのに、彼は群衆の期待を決して裏切らない。