『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「そう言えば、唐沢様へ連絡入れましたか?」
「話逸らしたな。……久我さんから連絡貰ってすぐにな」
「それで、何て?」
「何も。……だって結果は0%なんだし、父親は俺じゃないんだから、それ以上話すことはないだろ」
「……まぁ、そうですね」
「見るか?」
「何をですか?」
「検査の鑑定書」
「あるんですか?」
「会社に置いておくものじゃないだろ」
「……そうですね」
「ちょっと待ってろ」

響さんは書斎へと取りに行った。

クリスマス・イヴの夜を彼と二人きりで過ごせるだなんて、思ってもみなかった。
去年は名古屋で開催されたレセプションパーティーに出席して、その会場で知り合った女性とホテルへ。
あれから一年経ったのかと思うと、本当に時が経つのは早い。

彼の好きな白ワインを口にする。
すっかり私も好きになった味だ。

甘すぎず辛すぎず、まろやかでフルーティーで。
口から鼻に抜ける余韻が芳醇で、ついつい飲み過ぎてしまいそうだ。

「見るのは初めてだよな?」
「はい、通常のDNA鑑定なら、大学時代にゼミで学びましたけど、胎児のDNA鑑定は初めてです」
「まぁ、殆ど同じだと思うけど」

用紙一枚ではなく、しっかりと分析されたうえでファイリングされてある。
そこには、『父権の結果報告は0%』と表示してある。

よかったぁ。
彼がまだ誰のものにもならずにすんで。
もしかしたら、結果次第では結婚に発展する恐れだってあるもの。

覚悟はしている。
いつの日か、彼に好きな人ができて、その人と結婚することになったとしても。
ちゃんと秘書として彼を支え続けると心に誓ったんだから。

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