『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

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一睡もできなかった。

昨日も一昨日も腕の中に閉じ込めて眠りに就いたのに。
今夜は寝るのが怖くて、眠れなかった。

寝て起きたら、綺麗さっぱりリセットされてたらどうしようかと不安で。

夢なら覚めるな。
冗談なら一昨日来やがれ。


八年もの間、ずっと想いを募らせていた芽依が、俺が彼女に一目惚れするより二年も前に俺らは出会っていて。
彼女が俺の存在を気に留めてくれていただなんて、知ってしまったからには……。


二十四時間前に、彼女から抱きついて来たってだけで嬉しくてテンション爆上がりだったのに。

何これ、どんなプレイだよ。

俺を不眠にする罰?
二度とポーカーフェイスを作れなくする罰?
花屋が開けそうなくらい、脳内ただいま絶賛“春爛漫フェア開催中”だっての!

キスにしたって、止め時なんて分かんねぇよ。
キスを止めて顔を離したら、絶対視界にあの可愛い顔が映るじゃんっ。
そしたら、速攻で手が動いてしまいそうで……。

芽依が意識を手放すか。
俺が理性を手放すか。

マジで紙一重だったってのっ!!

よく頑張ったぞ、俺。
八年も寝かした最高級品なんだから、時間をかけてじっくり味わわないとな。
簡単に食べたら罰が当たる。

俺の腕の中でスヤスヤと寝ている芽依。
一昨日も昨日も同じように寝ていたはずなのに、全くの別の生き物だ。

何だよ、このふわふわでもふもふしてて、ぷにぷにしてる生き物。
そんでもって甘いフローラルの香りを纏った気品さも兼ね備えてて。

俺の真っ黒に汚れた手で触ったら穢れてしまいそうで。

怖ぇよ。
なのに、可愛すぎて我慢なんてできねぇ。

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