『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

ロサンゼルスに到着すると、日本とは違い、澄みきった青空が目に眩しい。
陽射しも強く、海風が心地よく感じられるほど、夏らしい空気感が何とも言えない。

空港からその足でファルン製薬の本社へと向かう。
ロサンゼルスの郊外に位置していて、広大な敷地に大きな施設が幾つもある。

バイオサイエンス業界の重鎮でもあるファルン製薬との業務提携を締結するための渡米。
数か月前から少しずつ推し進めて来た案件とあって、今回は絶対に結果を出して帰りたい。

ニ日後に予定している調印式に備え、担当者との事前打ち合わせをするため、本社にある研究所へと足を運んだ。

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「See you at the signing ceremony in two days.」(訳:では、二日後の調印式で)

業務提携の責任者であるゼネラルマネージャーのポール・ワーグナー氏(四十八歳)と握手を交わし、研究所を後にした。


手配しておいた車でホテルへと向かう道中。
如月はすぐさま打ち合わせの御礼メールを送っている。

いつだって隙が無い。
言わなくても完璧にこなす。

「副社長、如何されました?」
「……別に」
「それならいいのですが」

ノートパソコンを打ちながら俺の視線を感じた彼女は、手を止めることもせず、淡々と口にした。
視線を感じたなら、俺の目を見て話せっての。

視界にいるというだけで、ついつい目で追ってしまう。
無意識に手を差し伸べてしまいそうになる衝動を必死に堪えて……。

平常心を保とうと瞼を瞑り、彼女に気付かれないようにゆっくりと呼吸する。

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