『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

ホテルにチェックインし、自社の社員とオンライン会議をこなす。
先程の業務提携の打ち合わせの報告も兼ねて、今後の段取りを組むためだ。

「では予定通り、バイオサイエンスの部署を二つ設けて、新事業は今後その部署を主軸に行うこととする」

およそ四十分の会議を終え、軽くシャワーを浴びる。
如月との待ち合わせまで三十分。
女性は準備に時間がかかると思い、会議に同席させずに部屋へと送り出した。
彼女の部屋はすぐ隣。
けれど、セミスイートの部屋は広々としているからなのか、物音一つ聞こえて来ない。


彼女との食事は、取引先との会食やパーティーなどで一緒になることもあるが、基本彼女は同席を控えるように心掛けている。
同席してしまうと、どうしもて飲酒を勧められ、その後の対応に支障を来すからだ。

彼女は常に仕事を最優先とし、プライベートの時間であっても俺のフォローを決して忘れない。
そんな彼女だからこそ、たまには羽を伸ばさせてやりたくなる。

プライベートで彼女と二人きりで食事したことは、この三年間で十回あるかないか。
それも、デートとして楽しめるようなものではなく、仕事の延長のような感じで、仕事の話題でないと間がもたない。

女遊びを嫌というほどし尽くしているのに、何故か彼女の前だと緊張してしまって。
惚れた弱みというやつか。

ポーカーフェイスを気取っていても、彼女の言動に一喜一憂している俺がいる。


部屋のチャイムが鳴った。
彼女が来たようだ。

彼女を招き入れるようにドアを開けると、薄いグレーのシフォンワンピの上に白いジャケットを羽織った彼女が立っていた。
普段あまり見ない清楚なワンピース姿に見惚れ、ハッと息を呑む。

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