『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

ジャブとストレートのパンチが幾つも飛んでくる。
けれど、こんな弱っちいパンチ喰らったところで痛くも痒くもねぇ。
っつーか、パンチが遅すぎんだろっ。

「もう終わりか?」

喧嘩や格闘技は苦手らしい。
奴のパンチや蹴りを容易くかわし、指をクイックイッと折り曲げ、『かかって来いよ』と挑発する。

「んだよっ!」

奴の背後に、ドアから恐る恐る顔を出す芽依を捉えた。
心配そうに俺を見据えている。

「もう終わりだっ」

右足を奴の顎めがけて上段蹴りを入れた。
……それも、あと三センチというところで寸止めして。

俺の蹴りに腰を抜かした鮫島は、その場にへたり込んだ。

「副社長っ!」
「やっと来たか」

井上と共にマンションの警備員が二人駆けて来た。

「七一五号室の如月さんをつけ回す男です。防犯カメラの映像と共に警察にお願いします」
「分かりました」
「井上、後は頼む」
「承知しました」

床にへたり込んでる鮫島の襟を掴み、睨みを利かす。

「二度と彼女の前に現れるなと言ったはずだ」
「っ……」
「次会う時は、裁判所か?」

鮫島の耳元に呟き、警備員に奴を引き渡した。

「響さんっ……」

俺の元に駆けよって来る芽依。
目尻に涙を溜めて。

「何度も電話したんだぞっ」
「ごめんなさいっ、ドアを壊されそうで怖くて、動けなかったんですっ」

初めて俺に素面で抱きついて来た。

「もう大丈夫だよ」
「ぅっ……」

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