『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



「芽依、具合はどうだ?」
「休めば治ると思います」
「ここの所、体調悪そうだな。あまり無理はするな、ゆっくり休め」
「っ……」

寝室のベッドに横になっていると、彼が心配そうに見つめながら優しく頭を撫でる。
そんな顔しないでよ。
そういう顔をするのは、愛する女性にだけすればいいじゃない。

体調不良で定時で上がった私を心配し、彼も早めに上がったようだ。
仕事を持ち帰ったようで、彼は書斎へと寝室を後にした。

この家から出なきゃ。
仕事も辞めなきゃならないよね。

ずっと彼の傍にいるために十年もの間、必死に頑張って来たのに。
ううん、そうじゃない。
初めから傍になんていられなかったんだ。
だから、この三年間は奇跡と言っていい時間だった。

彼を諦めるために設けられた三年。
嫌な思いも沢山したけど、この三年間の思い出があれば、この先の人生生きて行けるよね。

今は何も考えられない。
彼への気持ちはすぐには消せそうにない。
だけど、もう淡い期待すら抱くことも止めないと……。

溢れ出す涙を彼に知られないように、まくらに顔を埋めた。



深夜二時過ぎ。
温かいぬくもりに包まれて、目を覚ます。
いつの間にか眠ってしまっていたようで、彼の腕の中にいた。

規律よく寝息を立てながら寝ている響さん。
私の頬にかかる彼の吐息が何とも言えないほどに幸せ感を与えてくれる一方で、このぬくもりもただ単に彼の欲を満たすための時間だということを突き付けられた私は、絶望の淵に立たせられていた。

「このぬくもりも……全て見せかけだったんですね」

< 160 / 194 >

この作品をシェア

pagetop