『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
髪に伝わる心地よい感触。
これは……?!
レストランからホテルへと戻る道中、いつの間にか寝てしまったようだ。
しかも、この視界って……。
しまった。
ヤバい。
どうしよう……。
意識は完全にある。
この感触は……如月が俺の髪を触っているのか?
優しく撫でられる感覚が地肌にまで伝わって来る。
っっっっ~っ。
動揺がハンパない。
笑顔一つ向けられたことがないのに。
こんな風に触れられたことも一度も無かったのに。
俺が寝ていたから?
だとしても、そんな素振り今まで一度も見せなかったのに。
あぁ、そうか。
『上司が気持ちよく寝てるのを起こしては申し訳ない』と思ったのか。
それなら納得だ。
常に俺が俺でいられるように完璧にフォローする彼女。
旅先だろうが、俺の睡眠具合を心配し、口にするものだって俺の好みのものを手配するんだから。
分かってる。
こういうことも、仕事の線上にしていることくらい。
けれど、それでもやっぱり嬉しい。
こんな風に愛おしそうに撫でられたら、目覚めていることさえ黙っていたくなる。
薄地のシフォンワンピースの生地越しに彼女の体温が伝わって来る。
優しいぬくもりと仄かに香るフローラルな香り。
このまま、時が止まってしまえばいいのに……。
程なくして車が停車した。
ささやかなドライブは終わりらしい。
「Thank you. The rest is yours.」(訳:おつりは不要です)
「Oh~Thanks. Have a nice night.」(訳:素敵な夜を~)
「副社長、……副社長?」
「んっ……」