『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
優しく肩が揺さぶられる。
仕方ない、起きるか。
「っ……、あ、悪い」
「いえ」
彼女に支えられ上体を起こし、タクシーを後にした。
ホテルのエントランスに横付けされたタクシーから降りた俺らは、煌びやかな照明が当たるロビーをぎこちない距離感で歩く。
「如月」
「はい」
「起こせばよかったのに」
「……気持ちよさそうに寝ていらっしゃいましたので」
「悪かったな」
「お気になさらず」
やっぱりそうだ。
彼女は俺の睡眠具合を心配して起こさなかったようだ。
部屋の前まで来た俺ら。
彼女の部屋は隣りのはずなのに、何故か俺のすぐ横に立っている。
「どうした?」
「ゾルピデム(睡眠薬)のご用意を」
「あぁ……ん」
俺の部屋に来ることなんて、仕事のこと以外にあるわけないか。
一瞬でもドキッとしてしまった自分が恨めしい。
カードキーでドアロックを解除し、部屋の中に入る。
リビングのソファーに腰掛け、視界の隅に映る彼女を視線で追っていると。
ミネラルウォーターをグラスに注ぎ、俺のキャリーケースから薬の入ったポーチを取り出した。
「入浴なさいますか?」
「シャワーだけ浴びる」
「では、こちらは就寝前に」
「ん」
睡眠薬は服用すると十分ほどで効き始める。
だから、飲んでから入浴するのは危険だと知っている彼女が、それを心配して声を掛けて来る。
「シャワーして来る」
「明日の用意をしておきます」
「悪いな」
その場に彼女を残し、俺はバスルームへと向かった。
あのままリビングにいたら、手を出してしまいそうで……。