『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「はぁ~、やっと帰った。まぁ、上出来でしょ。これで、暫く見合いは回避出来るよね…」

漏れ出すかのように呟く女性。
それまでの表情とは打って変わって、ふわっと花のような可愛らしい笑顔を一瞬覗かせ、女性はぐったりとテーブルに突っ伏した。

「フッ、……見合いを断るために演技したってことか」

思わず笑みが零れる。

見るからに上品なワンピースにボレロタイプのカーディガンを羽織っていて、装飾品も高級ブランドのものを身に着けている。見た目はどこから見ても令嬢そのもの。
立ち去った男性も、高級ブランドのスーツを身に纏っていたし、見た目も決して悪くなかった。
どこかの会社の御曹司っぽい感じだったが、お見合いとは思えない会話。

「お待たせ致しました。アイス珈琲になります」

テーブルの上に置かれたグラスを手に取る。

「フフフフフッ……やべっ、笑いが止まんねぇ…」

グラスを持つ手が震え、中の氷がカランッと揺れる。

ふんわりとしたダークブラウンの長い髪。
くりくりっとした大きな瞳。
白い肌に映える艶やかに彩られた唇。
細身なラインにしっかりと存在感をなす胸元。
きゅっと引き締まった足首にはセンスのいいアンクレットが輝く。

上品な顔立ちなうえ、愛らしさと色気も持ち合わせた極上の容姿。
『見合い』でなくても、十分男に不自由しなさそうなのに……。

俺と同じか。
家業や親のエゴのために身を犠牲にする宿命。

同じ境遇なのかもしれない、と思った瞬間。
彼女がとった奇天烈な行動が意外にも共感出来てしまった。

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