『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
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調印式は無事に執り行われ、その夜のパーティーに出席する。
「副社長、大丈夫ですか?」
「……ん」
本当は結構辛い。
けれど、それを吐いたら彼女に心配をかけてしまう。
あと一時間くらい我慢すれば済む。
喉越しの良さそうなカットフルーツが盛られた皿が目の前に置かれた。
「薬持って来てますので、少しでも召し上がって薬を」
「……ん」
一口大にカットされたメロンにフォークを刺したものを手渡す如月。
「だいぶ熱が上がってますね」
俺の手にフォークを握らせようと俺の手を掴んだ拍子に体温を読み解かれたらしい。
クラクラする。
頭がボーっとして、メロンの味がしない。
立っているのもしんどくなって来た。
「テラスの椅子まで歩けますか?」
「………ん」
彼女に支えられながら、テラスにある椅子に腰かける。
周りは俺が酔っているのだと思っているだろう。
カモフラージュにワイングラスがテーブルに置かれた。
差し出された薬を飲み、一息つく。
「副社長、本社から電話なので、少し席を外します」
「ん」
心配そうに見つめる彼女に小さく頷き、夜風が心地よく感じる。
「Hi」
「……」
もわっとジャスミンの香りが風に乗って鼻腔を掠める。
香水と言えばこの香りというくらい王道の香りだ。
ブランドステータスとでもいうのか、この香りを纏う女は結構多い。
嗅ぎ慣れた香りに嫌気がさしながらも、仕方なく瞼を押し上げる。
「What can I get you to drink?」(訳:何か持って来ましょうか?)
「No thanks.」(訳:結構です)
「Do you rest in your room when …―…」(訳:(酔ったのなら)部屋で…)
頭が朦朧として何を言っているのか聞き取れない。