『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「副社長、次の信号で降ろして下さい」
「理由は?」
「……会社の近くだと社員に見られてしまいますので」
「別に気にしないって言っただろ」
「私は気にします」
「……はぁ~」
「私は副社長の秘書を辞めたくはありません」
「………」
「ですが、公私混同していては、他の社員の模範にはなれませんので、どうかご理解を」
「俺の恋人より、秘書を選ぶという事か?」
「はい」
「即答かよ」
「申し訳ありません」

信号待ちの車内。
如月はいつもと変わらず、クールフェイスで淡々と口にする。

この七年強。
ずっと近づくことすら我慢していた俺が、漸く決心をつけたってのに。
速攻で拒否して来やがった。

分かってはいたけど、やっぱりへこむ。
口説いて落ちない女はいなかった俺が、こうもあっさりと拒否られるなんてな。

けど、“分かったよ”と簡単に諦められるものじゃない。
俺だって相当な覚悟を持って、宣言したんだから。

「週に一日、俺に付き合え」
「……それは、仕事ですか?」
「その条件呑めんなら、送迎は我慢してやる」
「………」
「週一のデートくらいいいだろ」
「そのようなプライベートで会うお約束は、お受け出来ません」
「じゃあ、俺も毎日送迎する。お前の提案は呑めない」
「っ……」
「ギブアンドテイクだろ。それとも何か?俺に惚れそうで不安なのか?」
「……いえ、それはありません」
「へぇ~、じゃあ、デートしたって構わないだろ」
「っ……」
「交渉成立だな」
「っっ~~っ」
「仕事中はちゃんと一線引くから、心配すんな」
「っ……」

彼女の頭を一撫でし、車を発進させた。

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