『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



金曜日の十七時。
如月は季節性商品の販促会議を途中で退席した。
今日は月一の『見合い』の日。

彼女が見知らぬ男と会うというだけで、仕事が手につかない。
彼女には公私混同しないと言ったが、そんなもの虚勢を張ったに過ぎない。

この七年強、いやもう八年になるか?
ずっとひた隠しに温めていた想いが、漸く動き出したのに……。
単なる『見合い』ならまだしも、『子づくり相手を決める見合い』だと知った以上、傍観するつもりは無い。

今日の見合いのコンセプトが何なのか分からないが、一旦帰宅して準備をするはず。
それを見越して行動する。

「では、製紙会社に幾つかデザイン案を出して貰い、来週木曜日に選定会を行うこととする。担当者はその旨を伝えた上で、会議の段取りを頼む」
「分かりました」
「今日の会議はここまでとする」

社員が席を立ち会釈する中、俺は会議室を後にした。
その足で一階正面玄関前へと急ぐ。

「もしもし?どんな様子だ」
『十七時十五分に帰宅し、ランニングウェア姿で自宅から出て来た彼女は、イヤホンを着けた状態で品川方面へとジョギング中です』
「フフッ」

今日のコンセプトはジョギング?
本当に発想が豊かで、飽きることが無い。

「今から社を出る。絶対に見失うな」
『了解です』

一階へと降りるエレベーター内で、調査会社の工藤 明(五十二歳)と通話し、指示を出す。


「品川方面」
「承知しました」

社用車に乗り込んだ俺は、井上に指示を出した。

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