『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



「如月」
「はい、副社長」
「この検査結果をデータに落としてくれ」
「承知しました」
「それと」
「……はい、何でしょうか」

自室のブラインドを少し下げる彼女。
陽射しがダイレクトに差し込んで来て、俺の背中に当たっているのに気付いた彼女が、ブラインドを下ろしながら俺の指示を聞いている。

「お誕生日おめでとう」
「っ……、ありがとうございますっ」

背中越しに照れているのが、何となく分かる。
俺はわざと机の上のボールペンを床に落とした。

窓際に立っている彼女がボールペンが落ちた音を聞き、それを拾い上げた、その時。
それを狙っていた俺は、彼女の首筋にそっと手を伸ばす。

「着けて来なかったのか?」
「っ……、はい」
「何故?」
「……高価すぎて職場には相応しくないかと……」
「思ってるほど高くないぞ」
「私には高価すぎます」
「フッ、……次贈る時はお手軽なものにするか」
「っ……、もう何も要りません!私には一つで十分です」
「はいはい、この話はこれで終わりな」
「っ……、申し訳ありませんっ。失礼致します」

逃げ出すかのように部屋を後にした芽依。
仕事とプライベートは一線を引くと言っておいた手前、勤務中にどうこうしようとは考えていない。

一度でも箍が外れてしまえば、制御不能になってしまいそうで。

俺の予想通り、職場にネックレスは着けて来てなかった。
想定内だからショックというわけではないが、どうしたら他の連中らに牽制出来るだろうか。

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