『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

彼女がモテているのは知っている。
男性社員は勿論のこと、取引先でも結構人気だ。

俺の秘書というのもあるし、勤務中は完全に冷徹女子の如く仕事に徹しているから、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのもある。
けれど、それがカリスマ性を放っているのは明らかで、大学時代からの友人の岩井から『お前の秘書を狙ってる奴は多い』と何度聞いたことか。

わざわざ親のライバル会社へ応募したくらいだ。
この会社に彼女の片想いの相手がいるんじゃないかとさえ思える。

まさか、岩井じゃないよな?
同じ大学なんだから、もしかしたら接点があったのかもしれないし。

悶々とする脳内を整理するため、珈琲を口にする。

ダメだ。
仕事が手につかない。
相手の男が誰なのかも気になるが、どうやったら彼女の心を射止められるか……それが一番のネックだ。



仕事を終え、帰宅した俺はパソコンに向かいネット検索をする。
『恋人と過ごすクリスマス』

実際には恋人では無いけれど。
そもそも『恋人』というものがどんなものなのか、曖昧な認識でしかない。

今まで女遊びを散々して来たが、恋人を作ったことは一度もない。
告白は腐るほどされたが、OKを出したことは一度もない。

遊びでならOKしても、二度目がある相手は一度も作ったことが無い。
だからこそ、芽依に対してどう振る舞っていいのかすら分からない。

けれど、八年近く我慢して来た分、もう遠慮するつもりは無い。
俺に出来ることなら何だってしてやる。


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