『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



「一先ず、今日明日の分くらいの荷物纏めて」
「……はい」
「手伝うことがあれば、遠慮なく言えよ」
「……はい」

自宅を後にし、タクシーで彼女のマンションへと移動した。
彼女が作成した契約書にお互いサインしたこともあり、今日から芽依が俺の家に来ることになった。

恐らく、彼女の考えていることはこうだろう。

同じ寝室で寝たら、俺が手を出すと思っているはず。
手を出せば、契約は不履行となり、俺が引き下がると睨んでいるはず。

それじゃなくても、彼女の両親の許可を得るのも難航しそうだし。
結婚が許可されたとしても、子供を横取りされる心配もある。

更には、副社長と秘書という関係性を重んじる彼女は、秘書としての職務を手放したくないらしい。
そこまでして、十年片想いしているやつのことが気になるのか。

どの条件であっても、俺にとったらかなり厳しい条件なのは変わらないが、逆を返せば、全ての条件をクリアさえすれば、彼女は俺のものになる。



再び自宅マンションへと戻った俺ら。
何となくぎこちない。

「家にあるものは自由に使っていいし、俺に気を遣わなくていいから」
「あの、……響さん」
「ん?」
「本当に宜しかったんですか?……この契約書の内容で」
「あぁ」
「後悔しませんか?」
「しない」
「即答なんですね」
「当たり前だろ。お前を俺のものにすることしか考えてねぇよ」
「っ……」

この絶好の機会を逃したら、一生後悔する。
芽依を手に入れるためなら、どんな拷問だって耐えてみせる。

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