『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「突然、連絡もせずに来た理由を教えて貰おうか」
「フフッ、……ご存知だと思うけれど?」
「どういう意味かな」

四カ月ほど前にホテルの一室に連れ込んだ女。
記憶にすら無いほどの相手だ。

ハーブティーが入ったカップを彼女の前に置いた如月が、部屋を出て行こうと踵を返した。

「如月」
「……はい」
「そこにいてくれ」
「はい?……ですが」
「いいから、そこにいろ」
「……はい」

この女との関係を気にするどころか、こういう修羅場的事情もうんざりしてるだろう。
自分が蒔いた種だから、勿論自分の手で摘み取るけれど。

彼女に対して、後ろめたいことは一つとしてしたくない。
これは俺にとって、これまでの過去を清算するためにも避けては通れない試練だと思うから。

「何が仰りたいのかさっぱり分からないので、はっきりと仰って貰えますか?」
「そういう言い方ってないと思うけど……」
「あぁ…、時間の無駄か。言いたい事があるなら、さっさと言え。こっちは業務に追われて話し相手するほど暇じゃない」

俺のポリシーは、二度目は無いということ。
会うことも寝ることも。
一度でも関係を結んだら、二度目は無い。

クラッチバッグから取り出したのは、エコー写真。
よくドラマや映画で観るような手のひらサイズのアレだ。

「あなたの子を妊娠したわ」
「………へぇ~」
「責任とって下さいますよね?」

勝ち誇ったような視線を向けて来る女を一瞥して、スマホをポケットから取り出す。

すぐさまとある人物へと電話をかける。

「もしもし?仁科です。お忙しい所、申し訳ありません」

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