『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

眉間にしわを寄せ、心配そうな視線を俺に向ける芽依にほんの少し笑顔を向ける。
『心配しなくていいから』と。

「……はい、そうです。……――…はい、宜しくお願いします」

通話を切り、別の人物へとコールする。

「井上、今から車出せるか?」
『はい、待機します』
「悪いな。俺じゃなくて、如月ともう一人女性を乗せて、白星会医科大学病院まで頼む」
『承知しました』

井上に指示を出し、如月を手招きする。

「今話してた通りだ。久我医師に連絡してあるから、彼女を連れて行って検査して貰ってくれ」
「承知しました」
「というわけだが、文句は無いよな?」
「っ……、何勝手なことを……。まさか、あなた以外の人の子だとでも言いたいの?」
「ん」
「冗談でしょ?」
「それはこっちの台詞だ」

応接用のソファーから腰を上げ、自席へと戻る。

「何を勘違いしてここまで来たのか知らないが、証拠も無いのに職場へ押しかけるとはマナーになってない」
「何よっ!」
「幾ら酒に酔ってたとはいえ、意識を失うほど飲むことは無いし、彼女にもあの日、会ってるだろ」
「……」
「如月、覚えてるよな?」
「はい、存じてます」
「こちらは証人もいるから、逃げも隠れもしない。言いたい事があるなら、証拠を持ってから来い」

デスクに置かれた冷めた珈琲を飲み干し、デスクの引き出しから鋏を取り出した。
ソファーに座る唐沢を見据えながら、自身の髪を一掴み取り、鋏で切り離す。
如月に目配せし、それをティッシュに包み手渡した。

「唐沢様、参りましょう」
「っ……」
「仕事の邪魔だ」

如月は女の腕を支えるようにしてソファーから腰を上げさせ、軽く会釈して女を連れて部屋を後にした。

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