『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
お前以外、やる気にならねぇよ

副社長の指示の下、大学病院へと向かう車内。
およそ十五分の道のりが、途方もなく長くに感じる。

「あなた、彼の秘書になって何年目?」
「……四年目になります」
「結構信頼されてるのね」
「信頼ですか、どうでしょう。私はお給料を頂いている身なので、課せられた仕事をこなしているだけですが」
「そう?……仕事でもない女性の管理までさせられてるじゃない」
「一般的な秘書の業務でしたらそうお思いになるかもしれませんが、私の仕事はこれも含まれてますので」
「へぇ~、結構痛い人なのね、彼」
「申し訳ありませんが、仁科の陰口はお控え下さい」
「フンッ、……彼も彼だけど、あなたもあなたね」
「………」

後部座席に座る唐沢 桃子は、明らかに冷ややかな笑みを浮かべた。



「井上さん、十一時半から打ち合わせが入っているので、社に戻って下さい。私は終わり次第、タクシーで戻りますので」
「分かりました」

大学病院の正面玄関前で社用車を見送る。

「唐沢様、参りましょう」

総合受付に声を掛け、久我医師の元に案内して貰う。
私の少し後ろを不服そうな顔でついて来る唐沢。
何を考えているのか分からない。

副社長は至って動じず、いつも通りのクールフェイスだったが、正直こんな展開慣れるもの?
私が彼の秘書になってからは一度も無かったが、もしかしたらそれ以前は頻繁にあったのだろうか?

言葉では言い表せないもやもやとした感情が沸き起こる。
平常心でいなければ……。

案内されたのは、十畳ほどの相談室と書かれた部屋。
唐沢様を席に誘導し、私は壁際に立った状態で待機する。

< 97 / 194 >

この作品をシェア

pagetop