うた×バト〜思いは歌声にのせて〜
『っく! あたしだって!』

 相手の子は悔しそうにうめきつつも、同じくメタモルフォーゼの歌を歌う。
 成功するかなんて()けでしかないかもしれない。
 でも、メタモルフォーゼしなければどちらにしろHPは0になってしまうという状況。
 歌わないわけにはいかないんだろう。

 かと言って投げやりになってる感じでもなかった。
 ちゃんと勝ちたいって気持ちが伝わってくる。

 ……でも、メタモルフォーゼするには何かが足りなかったみたい。

『っあ……』

 相手の子の“うたアニ”は、その姿を変えてはいなかった。

『……行くわよ、クロウ!』

 長澤さんの掛け声に、三足烏となったクロウが翼を大きく広げる。
 体の周りにあるキラキラのエフェクトを集めて何本もの槍っぽいものが出来上がった。
 その光の槍が相手の子の“ヒトガタ”に降り注ぐ。

『きゃあぁぁ!』

 防御に失敗した彼女に防ぐ(すべ)はない。
 三足烏の攻撃は確実に相手の“ヒトガタ”に当たり、彼女のHPは0になってしまった。

 3バトル目の後攻をすることなく、彼女の負けは決まってしまった……。

『勝者! 長澤絢ぁぁぁ!!』

 キョウの勝利アナウンスを聞きながら、私はスクリーンの三足烏を見つめる。
 その向こうの、長澤さんの存在に意識を向けた。

 やっぱり、強い。
 こんなに強い長澤さんに勝てるのかなって不安になる。
 でも、やっぱり認められたい、勝ちたいって気持ちはなくならない。

 午後には、私が長澤さんとバトルするんだ。

 私は挑むような気分で、赤チェックのスカートを握りしめた。
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