うた×バト〜思いは歌声にのせて〜
 ……でも、あの日――流歌の歌が聞こえてきた入学式の日。
 悪夢なんて見ないで、久しぶりに気持ちよく起きられたんだ。


 朝露(あさつゆ)に濡れる 小さな花弁
 夏を目指して 花開く
 太陽が近づく 春の終わり


 また、流歌の優しい歌声が聞こえる。
 優しく包み込んでくれる歌声。
 悪意から守ってくれているような、そんな強さもある素敵な歌声。

 その歌声に導かれるように、俺の意識は浮上した。

 ゆっくり目蓋を開けると歌っている流歌の顔が真っ先に見える。
 結い上げてるプラチナブロンドの髪を揺らしながら歌う流歌は、凄くキレイだった。

 満月の夜に歌っていた姿を見て陽向は月姫って呼んでたけど、陽の光の中にいる流歌もお姫様みたいにキラキラしてる。

 ……好きだ。

 自然とそんな言葉が浮かんだ。
 そして、胸の奥が温かくなって……鼓動が早くなる。

 あー、ヤバいな……。
 この気持ち……もうこれ決まってんじゃん。

 陽向や翼先輩、他の誰にも渡したくないって思った。
 独り占めしたいって思った。
 思った瞬間はその気持ちに名前つけられなかったけど、あの時点でもう俺の心は決まってたんだな。

 ……俺は、金井流歌っていう女の子が好きなんだ。
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