ひねくれ令嬢の婚活事情
「先程は申し訳ございませんでした……」
仕立て屋を迎え入れる客間へ向かう途中、二階へ上がる階段を登りながらオレリアは謝罪の言葉を口にした。いくらマティアスといえど、先程のオレリアの振る舞いは許容できるものではない筈だ。
だが、隣を歩くマティアスは事もなげに首を振った。
「ああ、別に何も気にしていないよ。君の母上は、直情的な分、貴族院の爺さんより分かりやすくて微笑ましいくらいだ」
オレリアに遠慮しているのかと思ったが、心底うんざりした様子で「あの爺どもは自分の利益しか目にない上に口だけは回るから厄介なんだ」と呟くあたり、本心であることが窺える。母とオレリアの言い争いなど、彼にとっては瑣末なことで気にも留めていないのだろう。
彼の気分を害していなかったことを安堵すべきなのか、恥を晒したことを忸怩するべきなのかと考えていたところで、マティアスは「それより」と硬い声を上げた。
「いつもあんな風に手を上げているのか?君の母上は」
「いえ。物に当たることはありましたが、人には……」
癇癪持ちで気位だけが高く、良い女主人とはとてもいえない母ではあったが、暴力を振るうことは今までなかった。それだけ、目立った反抗をしてこなかった娘が自分に意見したことが許せなかったのかもしれない。
マティアスは渋い顔をしながら物言いたげにオレリアをじっと見つめている。その眼差しを受け、階段を登り終えてからふと、大切なことを思い出した。
むしろ、なぜ部屋を出てから今まで忘れていたのだろう?そのまま足を止め、マティアスへ向き直る。