ひねくれ令嬢の婚活事情

 先に部屋へ行こうと歩き出したところで、後ろから腕をぐっと掴まれ引き寄せられる。足がもつれよろけそうになるが、肩を支えられ事なきを得た。

 マティアスの胸に身を預けることになり、女性とは違うしなやかな筋肉をシャツ越しに感じ、オレリアの頬に不意に熱が集まる。

「違うよ。ずっと見ていたいくらい可愛いってこと」
「は、はぁ?」

 甘やかな声が降ってきて、オレリアは戸惑いを隠すことができなかった。身を捩って彼の緩い拘束から抜け出し、きつい目つきで睨み上げる。だが、マティアスは依然、微笑ましそうにオレリアを見つめている。

「そうそう、そういうところ。すごく可愛い」
「かっ、揶揄わないで!」
「別に揶揄ってなんていないさ。全部本心。君と結婚したいっていうのもね。すぐに決めなくてもいいから、じっくり考えてくれればいいよ。さっきも言ったけど、君の考えを尊重するつもりだ。無理強いはしない。ただ、僕が君と結婚したいと思っていることだけは覚えておいて」

 そう言うと、マティアスはオレリアの手を取り再び歩き出した。

「貴方には、もっと相応しい方がいらっしゃると思いますけど……」

 金がないこと以外で自分を過剰に卑下するつもりはないが、たとえ爵位を継げずとも彼のような将来を期待された人間に、自分のような瑕持ちの女が相応しいとは思えない。それこそガーデンパーティでソフィーに投げかけられた言葉の通りに、もっと相応しいご令嬢が社交会には山ほどいるだろう。

 そう思ってぽつりと呟けば、マティアスは首を捻る。

「僕に相応しいってどういう女性?」
「…………少なくとも我が家より財政状況がまともで、悪評のない方ではないでしょうか?」

 そんな事を聞かれるとは思いもしなかったため、オレリアは少し悩んでから答えた。彼に相応しい人物など分からないが、少なくとも自分のような人間ではないことは間違いない。
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