その涙が、やさしい雨に変わるまで

エピローグ*その涙が、やさしい雨に変わったなら

 夏の終わりの夜空から、ぽつぽつと雨粒が落ちてきて窓ガラスを叩く。国際空港ターミナルビルのカフェの窓際の席で、夜闇をバックに流れ落ちていく水滴を見つけて瑞樹は思う。

(予報は晴れだったのに、やっぱり降ってきたか)
(本当に、三琴は雨と縁がある)
(あいつ、雨女だったか?)

 ガラス窓向こうの遠くにみえるランウェイが、常夜灯の明かりの中で薄くけぶる。この程度の雨なら、フライト到着時刻に影響はない。

(きっちり二ヶ月働いて一時帰国するとは、几帳面な三琴らしい)

 タブレットの画面を切り替えて、フライト運行状況を確認する。三琴が乗っているフライトに、遅延は起こっていなかった。
 三琴が入国審査をして手荷物を受け取って税関を抜ける時間を予想する。瑞樹の場合は慣れたものだからさっさと済ませて通り抜けることができるのだが、いかんせん、三琴は初心者だ。あたふたしてきっと簡単には抜けられないだろう。

 そんなことを含めて時間を計算すれば、もう少しここで資料をチェックしていてもいいのだが……
「…………」
 やはり気になるものは、仕方がない。
 瑞樹はタブレットをしまい、到着ロビーに向かった。

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