その涙が、やさしい雨に変わるまで

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　いま目の前にいる副社長は、半年後に結婚する。その相手は、ちょうど一年前に、雨の外階段で転落事故に遭った瑞樹を現場救護した女性だ。

　彼女の名は、大平(おおひら)美沙希(みさき)。偶然、事故現場を通りかかった会社員であった。

　美沙希は会社員であったのだが、元ナースでもあった。それゆえ彼女は事故現場で冷静でいられた数少ない通行人であった。
　戸惑う事故現場の群衆を押しのけて、瑞樹の手当てをし、救急車を呼び、病院まで付き添っていく――こんな迅速な対応をした美沙希に、瑞樹だけでなく彼の両親でもあるこの社の会長夫妻も大いに感謝したのだった。

　事故に遭った際に、瑞樹は強く頭を打った。出血も少なくなかったので、救急搬送された先でそのまま経過観測入院となった。事故で心身ともに弱り果てた瑞樹の要望で、このあと美沙希が看護につくことになった。

　そう、このときに「怪我人と看護人の図」が出来上がってしまったのである。
　瑞樹と美沙希はドラマのような出会い方をして、ドラマのように愛情を育て上げて、結婚まで話が進んでいる。

　事故当日の三琴は、とあるカフェで待ち合わせをしていた。
　その日は待ち人とともに、彼の家族の元へ結婚挨拶へ伺う予定であった。