ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

むしコンシェルジュ 向尸井 理

 執事イケメンは、一度店の奥の扉へ引っ込み「お待たせしました」と、麦茶の入ったオシャレなグラスをほたるの前にことりと置いた。
 それから「申し遅れました。私は当店のむしコンシェルジュでございます」と、名刺を差し出す。

 むしコンシェルジュ 向尸井 理

「むかいおさ」
「む・し・か・い、おさむです」

(な、なんか怖っ)
「あ、はい。むしかいさんですね」
 慌てて訂正して、麦茶を一口ぐびっと飲む。

「わ、なにこれ! 甘っ」
 麦茶じゃない。不思議な甘い飲み物。

「甘茶です。日本特産のユキノシタ科のヤマアジサイという落葉低木の変種のアマチャを、発酵、乾燥させ、茶葉を煮だしたものです。日本では江戸時代頃から釈迦の誕生祭の花祭りで、仏像に注いだり民衆に振舞われたりしてきました。含まれる甘味成分は砂糖の数百倍とも言われるほどで、口に入れると強い甘味を感じますがカロリーはゼロです。抗酸化、抗菌作用があり、家庭薬の原料や口腔清涼剤の原料としても使われています。そのほか、甘茶を混ぜた墨で白く四角い紙に『千早振る卯月八日は吉日よ 神下げ虫を成敗ぞする』と書き、逆さにして貼ると、虫除けができるとも言われています。当店でお出しする茶葉は、特殊な環境条件下で生育しており、すっきりした後味が特徴です」
「へえ」

 説明はよくわかんなかったけど、この味、紅茶にたっぷり砂糖を入れたみたいな、でもまったりとした甘味はジャスミン茶の後口となんとなく似ているような。
 ちょっと薬臭さくて、体に良さそうなとことか、虫酔い草のシロップになんとなく似ていて美味しい。
 ほたるはついつい一気飲みしてしまった。

 向尸井は「では、本題に入りましょうか」と、知的な微笑を浮かべてほたるの対面の椅子に腰を下ろした。
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