ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

地球公益むし屋のシステム

『あなたには良くない虫がついている。今すぐお祓いをしないと不幸が怒涛のように押し寄せますよ』とか脅して、不安に駆られた人に高額なお金でお祓いをした後『お祓いはしましたが、あなたは元来憑き物が憑きやすい体質です。このままではすぐに別の虫があなたを巣食うでしょう』とたたみ掛け、一枚何十万もする御札とかお守りとかを売りつける、宗教詐欺的な……

「違いますね」
 向尸井が、冷たく言い放つ。

「え? あたし今何も……」
「当店は『あなたには大変に悪い虫が取り憑いております』とお客様を脅し、高額なお祓いや御札、お守り等を売りつける悪徳商法の店では一切ございません」

(げっ、なんで心の声がバレてるの?)
 迫力のある微笑を湛え、向尸井は続けた。

「当店はむし屋でございます。原理は質屋に似たものとお考え下さい。質屋は世界中にございますが、一節ではむし屋が質屋の先駆けとも言われており、当店はフランスの公益質屋と同様、いわば地球公益むし屋でございまして……まあ、難しいお話はさておき。質屋では物品を預けて融資を受け、期限までに元金と利息を返済すれば物品は返却され、返済できない場合、預けた物品は『質流れ』となり、質屋の商品として販売されるシステムですね。むし屋も質屋と同様、むしを担保にお金を融資することが可能です。返済期限は、むしの寿命などを考慮して決定します。昔はむしと上手にお付き合いされる方も多く融資がメインでしたが、最近のお客様は買取りがメインですね。こちらは、いわゆるリサイクルショップとお考え下さい。つまり、買取りの場合は、むしをお客様の体内から取り出し、その場で査定して買取り金額をご提示致します。金額にご納得頂ければ即日買取り、ご納得頂けない場合はもう一度むしを体内へ戻し、そのままお帰りいただきます。また、当店は量り売りシステムもございまして、むしの一部のみの買取りも可能ですが、お客様のように無知……不慣れな方は買取りがよろしいかと存じます」

(今一瞬、ディスられた気が……)
 向尸井さんって意外と腹黒い性格かも、と思いながら、ほたるは尋ねた。

「その、むしって、あたしの中にもいるんですか?」
< 45 / 63 >

この作品をシェア

pagetop