ようこそ、むし屋へ    ~深山ほたるの初恋物語編~

高価なむし

「どなた様の体内にも数匹はおります。一度に大量のむしを体内から取り出すのは危険ですので、当店では一度に買取りできるむしは一匹とさせていただいております」

 ふうん。とほたるは考える。なんとなく仕組みはわかったけど、でも、体内からむしを取り出すとか、やっぱりなんか怪しい。

「ご参考までに、むしは安いもので五千円、高価なものですと、百万円以上の値がつくこともございます」
「ひゃ、百万?」
「査定は無料です」と、向尸井が黒目を光らせた。

 百万円はともかく、五千円でも大学生のほたるにとっては嬉しい金額。
(どうしようかな)

『随分と珍しい虫をお持ちですね』

 ふと、死神の声が蘇る。『石』の聞き間違えと思ったけど、やっぱりあの死神は『虫』と言っていたのかも。

(珍しい虫……)
 百万円の札束が浮かぶ。

「査定、お願いします」と、欲に目がくらんだほたる。
「承知いたしました。ではさっそく」と向尸井が立ち上がる。

「え、もうですか?」
 意味深な微笑を浮かべ、カツカツとほたるの元へ向尸井が近づいて来る。その顔が、何故かものすごく悪そうに見えた。

「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
 おもわず椅子から立ち上がって、後ずさりする。

 子供の頃好きだった陰陽師の映画がぱっと脳裏に蘇った。
 確か、陰陽師が呪文を唱えると、悪霊に取り憑かれた人間が、それはそれは壮絶に、猛烈に、死相を出して苦しんでいなかったっけ?

「や、やっぱりあたし」
 怖がるほたるの様子を楽しんでいるかのように、向尸井はジリジリと距離をつめ、その長い腕をおもむろに伸ばしてきた。

「き、ぎゃあ~!!」
 たまらず、ほたるは、頭を抱えてしゃがみこむ。
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