我慢ばかりの「お姉様」をやめさせていただきます~追放された出来損ない聖女、実は魔物を従わせて王都を守っていました。追放先で自由気ままに村づくりを謳歌します~

『アナスタシア。明日、君にとても大事な話があるんだ』
 それはつい数時間前のこと。三年間寄り添ってきた婚約者に言われた言葉だ。
 改まってなんだろう……と思いつつ、その場では『わかりました』と頷いた。
帰ってそのことを両親に伝えてみる。すると、ふたりは突然目を大きく輝かせ、前のめり気味に私の肩を掴んできた。右側にはお父様の逞しく大きな手のひらが、左側にはお母様の白くて小さな手のひらが肩に触れる。全然違う手をしているのに、どちらも指先にこもる力はとても強い。少し痛いくらいだ。
「アナ、それって……プロポーズじゃないのか⁉」
「……プロポーズ?」
 お父様の言うことがすぐに理解できず素っ頓狂な声を上げると、今度はお母様が言う。
「オスカー様との結婚が、正式に決まるってことよ!」
「……オスカー様と、結婚?」
 二度目のオウム返し。だが、今回は言葉の意味を理解している。その証拠に――ものすごく顔が熱いもの!
 婚約者のオスカー・ウィンベリー様は、私たちの暮らすプルムス王国の第三王子。国が誇るウィンベリー王家三兄弟の中で最も外見がかっこよく、性格もいい意味で親しみやすさのある優しい心の持ち主。長男に代々王位を継がせていた王家の中で、最も王位から遠い立場にいるものの、その人気は絶大だった。
 ……そんな素敵な人の婚約者に選ばれただけでも夢のような話だったのに。結婚だなんて。
 まだそうと決まったわけではないのに、両親からの期待を一身に受けたせいか、私までなんだか気分が高揚してしまっている。
「わぁ! ついに結婚なの⁉」
 部屋の奥から妹の声が聞こえて、そんな夢心地気分から一瞬にして我に返る。
「明日がとっても楽しみね! お姉様!」
 言いながらずかずかと私の元まで歩み寄ってくるアンジェリカ。彼女は私の双子の妹だ。だけど、こうして近くで見るたびに思う。二卵性とはいえ……本当に私たちは似ていない、と。アンジェリカの持つ女の子らしくハッピーな雰囲気が、元々おとなしく控えめな私にそう思わせるのかもしれない。
「で、でも、まだわからないわ。全然違う話かもしれないし」
「オスカー様がわざわざ事前に知らせてまで話したいことだもの。きっとお姉様の期待を裏切らない話に決まってるわ!」
両親が離れたかと思えば今度はアンジェリカに胸の前で両手をぎゅうっと握られる。お互いの手首には、以前アンジェリカが誕生日にくれたおそろいのブレスレッドがキラキラと輝きを放っていた。
「明日は目いっぱいおしゃれをして、オスカー様に会いにいきましょうよっ! ね? お姉様」
アンジェリカはその光のように眩しい笑顔を浮かべて言うと、今度は私の腕に絡みついて身体をぴたりとくっつけてくる。
「あぁ! 明日が待ちきれないわ!」
 肩にもたれかかりながら、アンジェリカは楽しそうに笑った。その姿は、オスカー様の話を私より楽しみにしているようにも見えた。

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