酸っぱい葡萄を甘くする
彼は、そのまま続けた。

「俺、期間限定の都合のいい男になります。
お姉さん。
好きにしていいんですから。
嫌やったらブロックしたらええです」

また彼が私のことを見つめる。
その瞳はちゃんと見てみると朝焼けと夜闇が入り混じった紺に近い黒をしていた。

そこに映る私は三角巾を首から吊るしていて、ひどく疲れた顔をしていた。
とても26歳の大人の女なんかじゃなく、
今にも泣き出しそうな少女がそこにいた。

初対面の少年にこれだけ介抱しないといけないと思わせるほど、ボロボロだったのかもしれない。そんなことに気が付かないくらい、私は、何も見ていなかったのかな。

急にこの場にいることすら情けなくなってくる。
逃げ出したかった。でも足が動かない。


彼の罪悪感からそう言わせているにしても、あまりにも彼が表情が変わらないから、彼の本心がどこにあるのかもわからない。

人間関係の距離の図り方も忘れてしまった。

「何もわからないから好きにしてください」

物事を決断するということからも避けていたから、どうしたら最適解を選べるのか、それすらも今の私には何も、分からなかった。

彼は眉を少しだけ下げて、笑ったような顔をした。

「ほな、朝に家行くわ」

と肩にかけていた私のカバンを優しく私の膝においてくれた。





「天音」

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