酸っぱい葡萄を甘くする

3

「どうっすか?俺の雑炊」

ニコニコしながらさも同然かのようにドア前に立っていたのか天音くんで、


しかも昨日と同じ朝8時の早朝で。

昨日の雨のせいか湿度がグンと上がって、
ムシムシした暑さの中、

「美味しかったです」

頭が回らない私は、玄関のドアを開けて素直に感想を伝えるしかなった。


無機質なコンクリート打ちっぱなしの通路を挟んで私と彼は立っていた。
彼は、いつもと同じ真っ黒のセットアップを着ていて、そもそも服の趣味で黒い服ばかり
を集めているのではないかとまでおもえてきた。

彼の雑炊に対して、
本当に味があると改めて思えた料理だったと思う。

私自身があまり料理が得意ではないから、ちゃんと感想を伝えられるか分からないけど。


少し生姜が入っているのか、鶏ガラ出汁の優しさの中にピリリと締りがある、締まりのある味だった。


そう伝えると、

彼は左の口角を少し上げて笑った。
少し釣り上がり気味の一重は細長くアーチを描いた。

「やっぱり、嬉しいわ」

最初は表情が分かりにくかったけど、よく見ると、喜怒哀楽が割と豊かな人なのかもしれない。

ただ、距離の詰め方が極端だ。
「俺、また今から寝るんで、用事あったら連絡いれといてください。すぐに反応できなくてすみません」

「夜のバイト?」

「まあ、そうっすね。俺、金ないから」

そんなに金が無いのか。
ファッションや見た目からはわからなかったけど。

夜のバイトをするには、彼の見た目はかなり優位に働くだろう。

私が不躾に彼を見ていたのに、
彼はギザギザの歯を見せて笑うだけだった。


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