酸っぱい葡萄を甘くする
「若いから、苦労があるんだね」

私がそうこぼした。
私が彼くらいのときに、こんなにバイトにはげんでいただろうか。

いや、今も特になにも励んではいない。
その事実を思い出して胸が痛む。


彼は
「お姉さんも若いでしょ」
とお世辞をくれた。

こんなボロボロジャージ女にわざわざリップサービスを…。またなんのメリットがあるか分からない。

「てか、謝りたいことがあるんす」

彼が困ったように自分の人差し指を自身の唇に当てた。細長く、でも節のある手が妙に艶やかに見えた。

真剣に言葉を選ぼうと頭を悩ましているのか、数秒、沈黙が生まれた。

静かな時間、たった数秒なのに、とてつもなく長くて、私が喋らないと居たたまれないような気持ちになる。

「いや…うーん…。昨日ね、頭触っちゃってごめんなさい。セクハラだし、失礼ですよね。年上の、しかも女性なのに。
嬉しくってうっかり考え無しで動いてしまいました。次、いやこれからも絶対触らないって誓うので。触ったら殴ってくれていいんで。」

彼がさっきの沈黙を埋めるようにまくしたてる。

何を言い出すかと思えば、昨日の私の頭を撫でたことだった。

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