来世なんていらない
後から後から登校してくる人達が、突っ立ったままの私を不思議そうに見てる。

慌てて上靴に履き替えて、教室までの階段を上った。

教室に入って、自分の席に近付いたら、先に来てた真翔に「おはよ」って言われた。

「おはよう」

「今日はちゃんと挨拶してくれんだ?」

茶化すように、真翔が笑う。

「意地悪…!」

次々と登校してくる真翔の友達たちが、なになに!?って真翔の机に集まる。

「ないしょ」

「なんで内緒なんだよ」

「お前らいちいちうるさいもん」

「えー?何、もしかして真翔と九条さんってそういう関係!?」

「うるさいなー!」

小さい兄弟が戯れてるみたい。
真翔のファンの女の子達が近くに居なくて良かったって思った。

鞄を横にかけて、私はいつも通り、前を見てた。
昨日の夜、前髪を切ったんだけど、真翔は気付いてくれたかな。

前のドアから武田さんが入ってきて、近くの席に座ってる友達に「おはよー」って言いながら、私のほうを見た。
目が合っている。

「お…おはよう、武田さん!」

三秒くらい、私を黙って見ていた武田さんは、そのまま自分の席に行ってしまった。

仕方ない。
たった一回くらい、平気。

武田さんと挨拶を交わしていた女子が、クルッて私のほうを振り向いて言った。

「しんちゃんともう喋った?」

「しんちゃん…?」

「進藤じゃん!」

「あっ…うん!さっき!」

「シート、貰った?」

「うん!」

「そ。ならいいけど」

それだけ言って、女子はまた隣の席の子と喋り始めた。

今日はすごい。
朝からいっぱい会話が出来た。

今はまだ、喋ってくれない人のほうが多いと思う。

現に今だって、教室の真ん中で武田さんのグループの人達が、こっちを見てコソコソ言ってるのだって気付いてる。

すぐには無理だ。
でも少しずつ、友達にはなれなくても存在を認めて貰えたら。

私は抜け出せるかもしれない。
この地獄から。
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