さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
プロローグ
 幼なじみにずっと恋をしてきた。

 嬉しい時も、悲しみに立ち尽くした時も優しい眼差しで寄り添い、頭を撫でてくれた8つ年上のお兄さん。
 
 子供の頃の無邪気な好意は成長と共に憧れに変わり、やがて恋に行きついた。
 彼の優しさの中にあるのは年の離れた妹に向けるような親愛と――同情。
 それでもいつかひとりの女性として見てもらいたい、隣に立ちたいと彼の背中を追ってきた。
 到底追い付くことできなかったけれど。

 今夜長い初恋を手放した後も、前を向いていられますように。
 想いは叶わなかったけれど、こんなに誰かを好きになれたことは幸せだったのだから。


「……へぇ、君は俺を練習台にして、他の男の所に行くつもりってことか」

 初めて聞くような苛立ちを含む声に、未来は驚いて顔を上げた。

 和輝の表情をはっきり確認できないまま、未来の頬は彼の大きな両掌で固定される。

「じゃあ、望み通り教えてやるよ。忘れられないようなのを」

 整いすぎた顔が躊躇なく近づく状況を処理しきれないうちに、和輝の唇が未来のそれと合わさる。

「……んっ!?」
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