別れを決めたので、最後に愛をください~60日間のかりそめ婚で御曹司の独占欲が溢れ出す~
「か、和輝君」

「失礼します」

 どう対応していいか決めかねている様子の日比野社長と、何があったのかと当惑している父にと軽く頭を下げる。
 加奈は蒼白な顔で固まり続けていた。

 和輝は速足でその場を後にし、エレベーターに乗りこむ。

(未来は俺が加奈さんと結婚すると思い込んでいる。そして、今日から家を出ていくつもりでいるということは――)

 こういう時はまず落ち着いて、状況を把握することが大切だ。

 スマートフォンを開き、もう一度未来から来たメッセージを確認する。

《今日から友達の家に泊まって引っ越し先探します。落ち着いたらこっそり荷物は片付けに行くね。いまま
でありがとう。私のことは心配しないでね!》

 最後に添えられた笑顔の顔文字は初めて肌を合わせた翌朝、逃げた彼女から受け取ったメッセージにも同じもので、和輝の胸は締め付けられる。

(マンションに未来がいないのは確実だ。どうする?)

 和輝は未来の友人の連絡先を全て把握しているわけではないし、連絡先もわからない。
< 175 / 230 >

この作品をシェア

pagetop