さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
10.ほどける糸
「……なんで?」

 未来は信じられない思いで和輝を見上げる。

「これ以上、未来を振り回すのはやめてもらいたい」
 
 未来の肩を強く引き寄せたまま雪成を見据える和輝の眼差しは静かな怒りを湛えているように思えた。

「どういうことですか? まるでわた……僕が未来を困らせているように聞こえますが」

 雪成は未来が聞いたことの無いような低い声で応える。

(僕? ユキちゃんってこんな男の人みたいな声だせるんだ……って、いやいやちょっとまって、いろいろわけわからないんだけど)

「未来の気持を弄ばないでくれと言っている。君がどう思っているか知らないが、俺は今さら未来を手放す気はないし、この手で幸せにするつもりだ」

「かず、くん……?」

 はっきりした言葉に驚いて改めて和輝の横顔を見る。彼の眼差しは相変わらず鋭い。

 すると雪成はゆったりと目を細め、いつもの声色で未来に笑いかけた。

「ですって、未来。良かったわね~」

「えっと……」

 和輝がここにいる理由も、彼の言った言葉の意味も雪成の意図も分からず軽くパニックに陥る。
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