さよならの夜に初めてを捧げたら御曹司の深愛に囚われました
3.「俺の妻になれ」
 一日の仕事を終え、帰宅した未来は自宅アパートの部屋のローテーブルの前に正座し「いただきまーす」と手を合わせて夕食を食べ始めた。

 メニューは帰りがけにスーパーで安くなっていたお惣菜の春巻きと冷蔵庫にあったもやしとニラの炒め物、冷ややっことレトルトの味噌汁と冷凍ごはんをチンしただけの簡単なものだ。
 冷蔵庫から出してきたペットボトルの麦茶をマグカップに注ぐ。

「まーいろいろあったけど、今日も一日がんばって働いた私、えらいわぁ」

 無理に出した明るい独り言とは裏腹に、部屋の隅に積みあがった段ボールが厳しい現実を知らしめてくる。

「……目下の問題は、この荷物と私の行き先をどうするかなんだよね」
 
 本当なら次の日曜にこの部屋を出ていくはずだったのだが、父の再婚に伴い未来は実家に戻るのをやめるつもりでいる。

 父が再婚相手と未来と三人で暮らすつもりだとしても、未来はそこまで無神経ではない。相手だって嫌だろう。

 もともと物事をはっきり言うタイプの人ではないから気にしていなかったが、今思えば未来が実家に戻りたいと申し出た時、父は戸惑っていた気がする。

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