ウェディングドレスは深紅に染まる
 エリナの右手には短剣が握られ、微笑みを浮かべている。

「殿下、足りませぬ。足りませぬ。その血だけでは足りませぬ。ウェディングドレスを深紅に染めなければならないのです。あの人のお嫁さんになるために」

 丸腰であったレナードは、意識が朦朧としながらも助けを呼ぼうとフラッと歩き始めた。

「殿下、どこへ行くのです? まだ染まってないと言ったではないですか」

 エリナは恍惚の表情でレナードの背中に短剣を突き立て、そして、抜く。

「……やめ……て……く……」

 膝をがくんと折り、かすれた声でつぶやくとレナードは倒れた。

 ドクドクと勢いよく流れ出た血がウェディングドレスに広がっていく。

「まだ、足りませぬ」

 微笑みをたたえながら、横たわっているレナードの背中を刺しては抜き、刺しては抜き、何度も何度も繰り返し、ウェディングドレスは徐々に血に染まっていった。

 すでに息絶えているレナード。

 それでも「足りない。足りない。深紅が足りない」とつぶやきながら、エリナは短剣で刺して、抜く。

 レナードとエリナが戻ってこないと、ざわつき始めた騎士達の声にエリナはフラフラッと立ち上がり、崖の先端にたたずんだ。

 目の当たりにした惨状にたじろぐ騎士達。

 深紅に染まったウェディングドレスのエリナは、くるりと振り返り、ゆっくりと優雅に、そして完璧なお辞儀(カーテシー)を見せ、幸せそうに微笑む。

 むごたらしい光景にもかかわらず、あまりの美しさに騎士達は思わず息を呑んでしまう。
 その姿は女神を彷彿とさせるほどであった。

 空を見上げ、笑顔を浮かべたまま、エリナはその身を海に投げた。
< 14 / 16 >

この作品をシェア

pagetop