雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
創介さんの挨拶が終わると、静かだった会場が大きな拍手の音で埋め尽くされた。
「――奥様、ご無沙汰しております!」
創介さんが壇上から消えると、私の前に神原さんが来てくれた。
「お久しぶりです、お元気ですか?」
今では、結婚されてお子さんもいる。それでも働き続けて、グループ本社の秘書課で秘書たちを教育する立場にいると聞いていた。
「おかげさまで。この度は、本当におめでとうございます! この日が来るのを私も待っていました。奥様も、もう、立派な社長夫人ですね……」
しみじみと神原さんが私を見る。
「なんだか、神原さんにはすべてを見られて来たから恥ずかしいです。それに、右も左もわからなかった私に最初にいろんなことを教えてくださったのは神原さんです」
「そんな、とんでもない! 本当なら、こんな風に気安く話し掛けられるようなお立場の方じゃないのに。奥様のお人柄からか、ついこうして声を掛けてしまう――」
そう言うと、改めて私に向き合った。
「本当に奥様は、何年経っても、社長がどれだけ地位が高くなっても全然変わらない。きっと、どなたからも慕われる社長夫人となられます」
「私が偉くなったわけではないですし、私は私の役目を何とか果たしたいと思って来ただけです。どうか、主人のこと、これからもよろしくお願い致します」
神原さんに頭を下げると、増々恐縮されてしまった。
「やめてください。もちろん、私も陰ながら少しでもお役に立てるよう力を尽させていただきます――あら、真白さん?」
「神原さん、こんにちは。お久しぶりです」
恐縮し合っていると、神原さんが真白に気付く。そして、真白のよそ行きの声が耳に届いた。
「こんなに素敵なお嬢さんになられて……。お父様のご心配も絶えないんじゃないですか?」
「ええ。ときおり、過剰じゃないかと思うようなこともあります」
真白が、家庭で見せるものとは全然違う、上品な笑顔を浮かべている。
「やっぱり……。でも、それも仕方のないことだわ。気が気じゃないはずですよ」
神原さんも、創介さんの性格を知っているからか苦笑していた。
「――でも、父は、私だけでなく、母のことになっても、人が変わるので。二人分の心配をして、大変そうです」
その他人事な言いぶりに、私と神原さんで笑ってしまった。
「それはそれは、社長も気苦労が絶えないですね」
少し立ち話をしてから、神原さんが仕事に戻って行った。