雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「……ねぇ、お母さん」

真白が私の正面に立ち、怪しげにニヤリとする。

「どうしたの? そんな顔して」
「さっき、お母さんはお父さんのこと好きなんだろうなって言ったけど――」

真白が一歩私に近付く。

「でも、お父さんはそれ以上だよ」
「急に、何?」

そのにやにやとした表情の意図が分からなくて、ただただ真白を見つめる。

「今日は、家に帰って来なくていいからね。お父さんに言われてるの。今日はお母さんを一日借りるって」
「え?」

創介さんから、私は何も聞いていない。

「どうぞどうぞ、夫婦水入らずで、いつまでも仲良くいてください。子供としては呆れるばかりだけど。でも、大人になっても、恥ずかしがらずにそうやって堂々と仲良くできるっていうのは、かっこいい気もするよ?」
「生意気なこと言って」
「だって、私も、もう大人ですので」

真白が後ろ手に手を組んで、偉そうにそう言う。

「もしかして、恋人とか、もういるの?」
「うーん。まあ、お母さんには教えようかな」
「本当に、いるの?」

高校二年。そういう存在がいても、不思議じゃないのかもしれないけれど、どうしても自分の娘のこととなると心配になってしまうのが親というものだ。

「正確には、好きな人がいる……ってとこかなー」
「そうなの?」

少し安心したような、微笑ましいような。真白も誰かに恋するような年頃になったのだ。

「あ……でも、お父さんには黙っていましょう。もう少し、子どものままでいさせてあげて」
「当然でしょ! お父さんに、好きな人が出来たなんて言うわけない」

物凄い剣幕で訴えて来る真白を見つめながら、心の中で創介さんに「ごめんね」と呟いた。

「というわけで、私たちのことはご心配なく。おじいさまもおばあさまも家にいるし」

数年前から私たち家族は、榊の家で創介さんの両親と共に暮らしている。

「今日、おじいさまもこの会場に来てるし、一緒に帰るね。あ、おじいさま!」

真白が少し声のトーンを高くして、手をあげた。

「おう、真白」

お父さまがにっこりと笑顔を見せる。

「一緒に帰りましょう」
「そうだったな。せっかくだ、何か欲しいものはないか? 帰りながらどこかに寄ろう」
「えぇ? いいんですか? 真白、嬉しいです!」

お父さまと真白の会話に苦笑してしまう。初孫の真白は特段可愛いみたいで、高校生になった今もこの調子だ。

「ああ、雪野さん。創介から聞いている。今日は、こちらのことは心配せずに、ゆっくりして来なさい」

いつの間に、そんな話になっていたのだろうか。

「すみません。申し訳ありません」
「何を言っている。創介が今日、ここの場に立てたのは、君の力もあるんだ。せいぜい創介にわがままを言いなさい」
「ありがとうございます」

お父さまの言葉に、胸が熱くなって頭を下げた。かつては、私との結婚を反対していた義理父の言葉に、ただただ胸がいっぱいになる。

「じゃあ、行きましょう、おじいさま!」

足取り軽い真白が振り向きざまに私に目配せをして、二人は会場を出て行ってしまった。

「――雪野」

そんな二人の背中を見送っていると、私を呼ぶ声が聞こえた。


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