雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
自分の控室に戻り、どこか心を無くしたように席につく。
そして、入手した常務の奥様の情報を見れば見るほど分からなくなる。
市役所勤務。その勤務先にも驚くけれど、常務と結婚したというのに、まだ辞めてもいない。
この時代、女性だって仕事を持つのは当たり前。でも、榊常務の立場を考えたら、一般女性と同列になんて考えられない。
そもそも、どこでどうやって出会うの――?
まるで榊常務と接点なんて見当たらない。強いて言えば、この『聖晃女子大』だろうか。お嬢様女子大として有名だ。
何よりあの容姿だ。
どうして、常務の目に留まったのか――。
気付けば、額に手を当てていた。
一体、このどうしようもないほどの負の感情をどうするのか。
どんな素性で、どんなレベルの女性であろうとも、上司である常務の奥様には違いないのだ。
失礼な態度なんて、取ってはならない。
――プルルルル。
私のデスクの電話が鳴る。
(たった今、矢代常務の部屋を榊常務がお出になりましたので)
それは、榊常務が最後に挨拶に回ることになっていた常務の秘書からだった。そこでの挨拶が済んだら一報を入れてもらうように頼んでおいたのだ。
「ご連絡、ありがとうございました」
受話器を置くと、常務室の前で表情を作った。
私は、秘書だ。常務をお迎えしなければならない。